男女平等なんて本当に実現できるのか?

生命保険の保険料は男女で違う

生命保険の死亡保障商品というのがあります。
被保険者が亡くなったら受取人が保険金を受け取れるという、一般的な生命保険です。

 

このタイプの商品は、基本的に「年齢」と「性別」で毎月支払う保険料が変わってきます。最近はこれに喫煙の有無や健康診断結果を反映させる商品も出てきていますが。


人間は年齢が高いほど統計的には死ぬ確率が高くなるので、年齢が高いほど支払う保険料は高くなります。

また、男性よりも女性のほうが統計的に長生きなので、同じ年齢なら男性のほうが死ぬ確率が高い分、保険料も高くなります。

レディースデーじゃないですが、同じ保険金が出る商品ですが女性の方が安いんです。


一方死亡保障でなく、死ぬまで毎月お金がもらえる終身年金の場合は、女性のほうが長生きする確率が高く、支払う年金額も統計的には多くなるので女性のほうが支払う掛金は高くなります。


これにより、色々な年齢、性別の人が加入しても保険会社が確率的には同じように儲けられるであろう保険料が設定できるというわけです。

この年齢、性別による死ぬ確率を「生命表」として厚労省が作っていて、これが生命保険各社の保険料設定の基になっています。

平成30年簡易生命表(男) [62KB]
平成30年簡易生命表(女) [63KB]

この生命表によると、60歳だと男性の死亡率が0.65%、女性が0.29%なので、倍以上男性のほうが死にやすいみたいです。


生命保険って死んだらお金がもらえる宝くじみたいなものですが、死ぬ確率2倍なのに値段が同じだったら宝くじ1枚と2枚が同じ値段で売っているようなものになってしまうので、それなら値段に差をつけたほうが合理的に思えます。

 

EUでは生命保険は男女同一価格

しかし、この男女別保険料は男女差別だということで、2011年に欧州司法裁判所で違法だという判決が出ました。このためEUでは現在男女で保険料同一のユニセックス保険しかありません。

 

男女で料金が違うのは確かにそこだけ考えれば男女差別ではあります。

そこに確率的な合理性があってとしても男女差別は男女差別であるという判決です。

考えてみればそれは確率的差別というやつで、特定の属性の人間は犯罪率が高いからという理由で属性全体を差別するわけには行かないですから、EUの判決にも理屈はあります。

ご関心のある方はこちらを

男女別保険料率の禁止を巡るEU保険業界の動向

こんなわけでEUでは女性の死亡保険保険料は大幅に上がり、かといって男性の保険料が下がった訳でもないという状況のようです。

ちなみに自動車保険も女性ドライバーのほうが少し安かったのが同じ値段になったようです。


今のところ日本では、というかEU以外ではアメリカ含めほとんどの国で男女別保険料なのですが、どちらかのやりかたを平等であるとすれば、どちらかは平等でないということになります。しかし、どちらにも一応の理はある。

平等は結局定義次第であり、定義がなければ平等かどうかの判断もできないのですが、みんなの価値判断基準が異なるので定義の共有が簡単ではないという一つの事例です。

そう思うとみんなが男女平等だと思う状態は難しいというか多分無理なので、どうやってもだれかは我慢しないといけないのかもしれない。

 

でも日本の公的年金は男女同一価格

また、日本の生命保険は男女別料金になっていますが、国民年金、厚生年金などの公的年金は男女同一掛金になっています。

期待値で言えば寿命の長い女性の方が長い間もらえるので支給額は多くなる確率が高いため、確率的には女性に有利な制度となっています。

そうすると、現在の男女別生命保険料を男女平等とすれば、現在の公的年金は不平等ということになってしまいますし、男女同一保険料の公的年金を男女平等とすれば今度は生命保険は不平等ということになり、現状だれもがどちらかに不公平を感じてしまう状態になっています。

 

保険というせまーい世界だけでも、EU-日本のねじれがあり、日本の中でも生命保険ー公的年金のねじれがあるという状況で、だれもが納得する男女平等なんてあるのだろうか?

あるとすれば、特定の価値観に基づいて平等を定義し、その定義に全員の価値観を合わせることができたあとなんじゃないの?そんなこと北朝鮮的教育でも施さないと無理じゃないとも思ってしまいます。

 

確率に基づいてリターンの期待値は同一になる男女別料金と、リターンの期待値に差はあるが男女同一料金のどちらが平等と感じますか?